| ここはトロウのとある空き地。時はレーティ・パルの月半ば。日も落ちようとしている頃、一匹の灰色の猫ライグルが心細そうにややうつむき加減で辺りを見回している。 |
| そこへ近づく一人の人間。一目で冒険者とわかる男性だ。男はその猫ライグルに近づき、声を掛ける。 |
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「・・・おい、こんな所にいたら風邪を引くぞ。・・・迷子か?送ってやろう・・・」
猫ライグルは驚いたように顔を上げる。 「ニャ?パパとママはどこニャ?どこなのニャ??うわーん!!」 大泣きする猫ライグル。男は困ったような表情をしながらも、仕方ないな、と聞こえてくるようなため息を一つつくと、猫ライグルを連れて家へ戻る。 |
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メスの猫ライグル。名前をもらっていないらしい。話をよく聞いてみると、どうやら捨てられたようだ。風呂で洗ってやると真っ白な毛並みが出てきた。 「捨て猫ライグル、か・・・。仕方ねぇなぁ・・・」 困った表情で頭をポリポリする男。そして、しばらく考え込むように腕組みをする。 「・・・よし、今日からお前は『ノルン』だ。『ノルン・ウェア・キャット』だ。いいな・・・?俺の名は・・・だ・・・」 |
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その男は家族に先立たれたという過去を持っていた。そして、男には娘がいた。 男が冒険で二月ほど留守にしたことがあった。戻って来た時には、妻と娘はすでに冷たい躯<むくろ>と化していた。 |
| だから、おまえを拾ったのだ、と酒の酔いに任せて語った。 |
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ノルンは男に名前と、拾って育ててくれているお礼をしようと、家の中の雑用を覚えた。言葉は男が教えてくれた。 男は躾に厳しかった。その反面、喧嘩っ早い人物であった。 彼の元には同じように喧嘩っ早い者が大勢訪れた。 家の中での喧嘩は日常茶飯事であった。 気がつけばノルンも、負けないように喧嘩っ早くなっていた。 |
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その日も、いつも通り家の雑用に追われていた。 しかし、男は予定の日になっても帰ってこなかった。 風の噂で、冒険の途中に命を落としたと聞いた。 |
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そのことを知った日、ノルンは泣いた。男を思って。 そして、初めて気付いた。男が自分にくれたもの―それは、家族愛だと。 家族を知らない自分の父親となり、母親となって育ててくれたのだと。 そして、自分を娘のように思っていてくれたのだと。 |
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そして、男がよく言っていた言葉― 「いずれは、独り立ちさせなければならないな・・・」 |
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ノルンは生きていくため、そして独り立ちするために冒険者を選んだ。 危険な仕事だということは男と暮らしていてわかっていた。 いつ育て親の男と同じように(命を落とすことに)なるかわからない。 しかし、男の冒険譚に憧れてもいたのだ。 広い世界を自分の足で歩き、自分の目と耳で見聞きする―。 |
| こうして、ノルンは冒険者の集まる月灯り亭へと足を踏み入れた・・・。 |