◆事件勃発!〜そして、冒険者へ〜◆
 グレンタール家。知ってる人間は少ないものの、何代か続いている、トロウでは中流階級に位置している家だ。
 グレンタール家には3人の男の子と2人の女の子がいた。
そして、知っている人は知っている、ある秘密があった。
“グレンタール家の3男は甥”―。そう、本来はグレンタール家当主、コーネリアスの甥にあたるのである。
彼の名はフェイン。コーネリアスの兄とその妻の息子であった。
家業に興味のない兄に対して、家業に興味のある弟。
兄夫婦は冒険の傍ら、グレンタール家の護衛の仕事もしていた。
ある時、彼らは弟、コーネリアスを狙ったある暗殺者によって殺害された。貴族間にありがちな陰謀であった。
独り立ちするにはまだ幼かったフェイン。コーネリアスは彼を引き取った。
せめてものお詫び、そして恩返しに、と。
状況を理解していた利発な少年は、周りが望む人間を演じ続ける。
そして、生まれる前の出来事で何も知らない妹は無邪気に彼を慕う。
それから数年。
彼も立派な青年として仕事を任されるようになっていた。さらに、彼の年齢では不思議ではない、お見合いの話も持ち上がった。
だが―。
誰も気付かなかった。否、気付けずにいた。
兄を慕う妹が兄妹以上の感情を持っていたことに。
そして、事件は起きた―。
『家と家との繋がり』という意識の強い貴族。
フェインの実力を恐れた貴族たちは、こぞってフェインに自分の娘と一緒にさせようとした。
殆どは却下されていたのだが、ある話が通り、見合いの席が設けられることに。
そのことに末の妹は激怒。彼女は見合いの席に乗り込み、相手の女性を持参のナイフで切りつける。そして、こう叫んだ。
「フェイン兄様は私のものなのよ!私と一緒になるの。そうよ、誰にも渡しはしないのですからね!」
この事件以来、彼の周囲では見る目が変わった。うわさ話も絶えなかった。
彼自身も変わった。
夜遊びと称して頻繁に冒険者の宿(銀の月灯り亭)に出入りするようになったのだ。
周りの冒険者との話に花を咲かせ、自分が貴族であることを忘れようとした。
彼女を恐れて、男も女も、必要時以外誰も近づかないようになったからだ。
両親ですら、末の妹の言動に恐れ始め、彼と妹を一緒にしようと言い出した。
妹としか見れない彼と、一人の男性としか見えない妹。
兄や姉にも相談した。
兄2人は両親の決定に従うべきだと説いた。もちろん、周りもだ。
だが、誰よりも強い姉だけは違った。
「無理に自分を殺して妹と一緒になる必要はない」
これ以上ここにいれば誰に火の粉がかかるわからない。
彼は全てを捨てる決心をした。
自分さえ、この家にいなければいい。妹も諦めがつくだろう・・・。
手始めに、冒険者となることを選んだ。
あそこならば、誰も『貴族としてのフェイン』を知らない。ただの『フェイン』となることができる。そう思ったからだ。
予想通り、自分を深く探る人はいなかった。種族すらバラバラなのだから。言葉を濁せば、それだけで相手は自分に対して興味をなくしてくれる―。その空気が彼には心地よいものだった。
そして、彼はまた今日も酒を飲む。周りの空気を肴にして。


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